広告 筋肉 論文解説

【新常識】筋トレは“長寿”への投資である。日本人研究Gが突き止めた「最も死亡リスクが下がる」黄金律とは

2025年10月5日

アタマジと申します。

「健康のために運動をしましょう」という言葉を聞いて、多くの人々が思い浮かべるのは、ウォーキング、ジョギング、水泳といった、いわゆる「有酸素運動」ではないだろうか。確かに、有酸素運動が心肺機能を高め、生活習慣病のリスクを低減させることは、数多の研究によって証明されてきた、疑いようのない事実である。

しかし、もし「筋力トレーニング」が、ボディビルダーやアスリートといった特定の人々のためのものではなく、私たち一般の成人が健康寿命を延ばし、深刻な病から身を守る上で、有酸素運動と双璧をなすほど重要な役割を果たすとしたらどうだろうか。

近年の科学は、まさにこのパラダイムシフトを裏付けつつある。そして本日、この記事で深掘りするのは、日本の研究グループによって世界で最も権威のあるスポーツ医学雑誌の一つに発表され、その論争に一つの力強い答えを提示した、画期的な研究論文である。この論文は、筋トレが私たちの命をどう守るのか、そして私たちが実践すべき「最も効果的な黄金律」を、極めて明確なデータと共に示している。

今回ご紹介する論文:日本発、世界の常識を変えた研究

今回、議論の核心に据えるのは、日本の東北大学の研究者らを中心とするグループによって執筆され、2022年に『British Journal of Sports Medicine (BJSM)』に掲載された、システマティックレビュー・メタアナリシスである。

引用文献: Momma, H., et al. (2022). Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine, 56(13), 755-763.

この研究の信頼性は、その手法によって担保されている。「メタアナリシス」とは、過去に行われた複数の質の高い研究を世界中から収集し、それらのデータを統計的に統合することで、単独の研究よりもはるかに偏りの少ない、強力な結論を導き出す研究手法である。本研究では、16もの大規模な観察研究が統合されており、その対象者の総数は数十万から百万人規模に及ぶ。まさに、筋力トレーニングと健康に関する、現時点での最高レベルの科学的エビデンスの一つと言えるだろう。

なぜ今、改めて「筋力」が重要なのか?

論文の具体的な結果を見る前に、なぜ現代において「筋力」の維持がこれほどまでに重要視されるのか、その背景を理解しておく必要がある。

私たちの筋肉は、何もしなければ年齢と共に自然に衰えていく。特に40歳を過ぎると、その減少は加速し、高齢期には「サルコペニア」と呼ばれる、自立した生活を脅かすほどの深刻な筋力・筋肉量の低下状態に陥ることがある。

サルコペニアは、単に「力が弱くなる」「疲れやすくなる」といった問題にとどまらない。転倒や骨折のリスクを増大させ、要介護状態の直接的な引き金となる。さらに、近年の研究は、筋肉が単なる運動器官ではなく、全身の代謝をコントロールする巨大な「内分泌器官」としての役割を持つことを明らかにしている。筋肉は、体内で最も多くのブドウ糖を消費する臓器であり、その量が減少することは、2型糖尿病のリスクを直接的に高める。

筋力トレーニングとは、このサルコピアという静かなる脅威に抗い、自らの健康資産である筋肉を維持・増強するための、最も効果的な手段なのである。

論文が明らかにした「筋トレと死亡リスク」の驚くべき関係

さて、本題である。Momma博士らのメタアナリシスは、筋トレという習慣が、私たちの健康にどれほどのインパクトをもたらすのかを、具体的な数値で示した。その結果は、大きく3つの驚くべき発見に要約される。

発見①:筋トレ単独でも、絶大な予防効果がある

これまで、筋トレの健康効果は、有酸素運動の補助的なものと見なされる傾向があった。しかし、本研究は、筋力トレーニングを単独で行うこと自体が、主要な疾患のリスクを顕著に低下させることを明確に示した。

筋トレを習慣的に行っている人々は、全く行っていない人々と比較して、

  • 総死亡リスク(あらゆる原因による死亡)が 15% 低下
  • 心血管疾患のリスクが 17% 低下
  • 全がんの発症リスクが 12% 低下
  • 2型糖尿病の発症リスクが 17% 低下 していたのである。

そして、これらの効果が最大化される運動時間に注目すべきである。リスクが最も低下していたのは、筋トレを週に30分から60分行っているグループであった。これは、週に2回、1回あたり15分から30分のトレーニングでも十分に達成可能な時間であり、多くの人にとって決して非現実的な目標ではないことを示している。

発見②:やりすぎは効果を減らす? - 「J字カーブ」の謎

この研究が提示した、最も興味深く、示唆に富む発見の一つが、運動時間と健康効果の関係が、単純な比例関係ではない可能性を示したことである。

総死亡、心血管疾患、全がんのリスクにおいて、その効果は「J字型」または「逆J字型」のカーブを描いた。つまり、週30〜60分をピークとしてリスクが最も低下し、週に130分〜140分を超えるあたりから、その健康上の利益が徐々に薄れていく、あるいは見られなくなる傾向が示唆されたのである。(糖尿病に関しては、運動時間と共にリスクが低下し続けた)

これは「やればやるほど良いわけではない」可能性を示しており、過度なトレーニングが必ずしも最善の健康戦略とは限らないことを物語っている。ただし、これは観察研究の結果を統合したものであり、なぜこのようなカーブが描かれるのか、その明確なメカニズムはまだ解明されていない。過度なトレーニングに伴う怪我のリスクや、他の健康行動に割く時間が減る影響なども考えられ、今後のさらなる研究が待たれるところである。しかし、少なくとも「効率的な実践」の重要性を我々に教えてくれる。

発見③:最強の組み合わせ - 有酸素運動との相乗効果

本論文が導き出した、最も重要かつ実践的な結論はここにある。筋力トレーニングと有酸素運動、その両方を習慣的に行っている人々が、最も死亡リスクが低いという事実である。

筋トレのみ、あるいは有酸素運動のみを行っている人々と比較しても、両方を組み合わせて行っている人々の健康状態は、群を抜いて良好であった。具体的な数値は驚異的である。

有酸素運動と筋トレの両方を実践しているグループは、どちらも行っていないグループと比較して、

  • 総死亡リスクが 40% 低下
  • 心血管疾患による死亡リスクが 46% 低下
  • がんによる死亡リスクが 28% 低下 していたのである。

これは、有酸素運動と筋力トレーニングが、それぞれ異なるメカニズムで、しかし互いに補完し合いながら、私たちの体を病から守っていることを強力に示唆している。健康長寿を目指す上で、この二つの運動を車の両輪と捉えることの重要性を、これ以上なく明確に示した結果と言えよう。

おすすめAmazon腹筋ローラー

なぜ筋トレはこれほど強力なのか?

では、なぜ筋トレはこれほどまでに強力な健康効果をもたらすのだろうか。その背景には、筋肉が持つ多面的な生理機能が関わっている。

1. 血糖コントロールの司令塔として 前述の通り、筋肉は体内で最も多くのブドウ糖を取り込み、貯蔵・消費する臓器である。筋トレを行うと、筋肉細胞はインスリンの助けを借りずとも、直接血中のブドウ糖を取り込むことができるようになる。さらに、習慣的な筋トレは、インスリンそのものの効きを良くする「インスリン感受性」を改善する。これにより、食後の血糖値の急上昇が抑えられ、2型糖尿病の根本的な予防・改善につながる。

2. 健康物質「マイオカイン」の分泌器官として 近年の研究で、運動時に筋肉から「マイオカイン」と呼ばれる、数百種類もの生理活性物質が分泌されることが分かってきた。これらのマイオカインは、血流に乗って全身を巡り、まるでホルモンのように様々な臓器に働きかける。例えば、脂肪細胞に働きかけて脂肪の分解を促したり、肝臓の糖代謝を改善したり、脳に到達して認知機能を高めたり、さらにはがん細胞の増殖を抑制する効果を持つものまで見つかっている。筋トレは、この「若返り物質」とも言えるマイオカインを分泌させる、最も効果的な手段なのである。

3. 基礎代謝の向上と体組成の改善 筋肉は、安静にしている時でも多くのエネルギーを消費する。筋肉量が増えれば基礎代謝量が上がり、同じ食事をしていても太りにくい、エネルギー効率の良い体になる。これにより、肥満やそれに伴う多くの生活習慣病のリスクを根本から低減させることができる。

結論:明日から始める「長寿のための筋トレ戦略」

今回深掘りした論文は、筋力トレーニングが、もはや一部のアスリートや若者のためだけのものではなく、有酸素運動と並ぶ、万人のための「長寿への投資」であることを、揺るぎない科学的根拠をもって示した。特に、有酸素運動との組み合わせがもたらす相乗効果は、私たちの健康戦略の根幹に据えるべき重要な知見である。

この科学の恩恵を享受するために、私たちは何をすべきだろうか。論文が示すエビデンスに基づき、明日からでも始められる、具体的かつ現実的な戦略を以下に提言する。

1. 目標は「週30〜60分」から まずは、気負う必要はない。最も効果が高かった「週に30分から60分」の筋トレを目指そう。これは、週に2回、1回あたりわずか15分から30分の実践でも十分に達成できる。この程度の時間であれば、多忙な生活の中でも確保できるはずだ。

2. 自宅でできる自重トレーニングで十分 高価な器具やジムの会員権は必須ではない。自分の体重を負荷として利用する「自重トレーニング」は、極めて効果的かつ安全である。スクワット(下半身)、腕立て伏せ(上半身)、プランク(体幹)といった基本的な種目から始めるだけで、全身の主要な筋肉を十分に刺激することができる。

3. 最強の組み合わせを意識する 論文が示した通り、最大の効果は「有酸素運動との組み合わせ」によって得られる。例えば、「週に2回、20分の筋トレ」と「週に3回、30分のウォーキング」といった組み合わせを、1週間の目標として設定するのはどうだろうか。

筋肉は、決して裏切らない。年齢や現在の体力レベルに関わらず、トレーニングを行えば、筋肉は必ず応答してくれる。今日始める一回のスクワットが、10年後、20年後の自身の健康を守る、最も確かな一歩となるに違いない。

おすすめAmazon腹筋ローラー

アタマジ

健康と読書が好き。健やかに生活する。

-筋肉, 論文解説