私たちは、喫煙、不健康な食事、高血圧、糖尿病といった「伝統的なリスク因子」を恐れ、それらを管理することの重要性を繰り返し説かれてきた。健康診断の結果に一喜一憂し、血圧やコレステロール値を下げる薬には多大な関心が寄せられる。これらはもちろん重要なことである。
しかし、もし、これらすべてのリスク因子を束ねてもなお、それ以上に私たちの「死」を強力に予測する因子が存在するとしたらどうだろうか。もし、その因子が「運動不足」や「体力不足」という、ありふれた状態だとしたら。
本日、ここで徹底的に解き明かすのは、その恐るべき現実を、医学界に衝撃と共に突きつけた一つの大規模研究である。これは単なる「運動は体に良い」といった生ぬるい話ではない。「体力が低いまま放置されている状態は、タバコを吸い続けること以上に危険な可能性がある」という、極めて深刻な科学的警告である。
今回ご紹介する論文:クリーブランド・クリニックの衝撃
今回、議論の土台とするのは、米国の高名な医療機関であるクリーブランド・クリニックの研究チームによって、2018年に『JAMA Network Open』という権威ある医学雑誌に発表された、大規模なコホート研究である。
引用文献: Mandsager, K., Harb, S., Cremer, P., Phelan, D., Nissen, S. E., & Jaber, W. (2018). Cardiorespiratory Fitness and Long-Term Mortality in Adults. JAMA Network Open, 1(6), e183605.
この研究の信頼性とインパクトは、その圧倒的な規模と厳密性にある。

- 対象者: 1991年から2014年の間に同クリニックで運動負荷試験を受けた成人、実に122,007人。
- 測定法: 全員に「トレッドミル運動負荷試験」を実施。これは、ランニングマシンの速度や傾斜を徐々に上げていき、被験者が限界に達するまでの運動能力を測定する、極めて客観的な体力測定法である。
- 追跡: その後、参加者を平均8.4年間(最長で約27年間)追跡し、その体力レベルと「あらゆる原因による死亡(総死亡)」との関係を分析した。
自己申告の曖昧な「運動習慣」ではなく、「客観的に測定された体力」そのものと、「死」という究極のアウトカムとの関係を、これほどの規模で長期間にわたり分析した研究は、過去に例がなかった。
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そもそも「心肺持久力(CRF)」とは何か?
本論文のテーマである「心肺持久力(Cardiorespiratory Fitness; CRF)」とは、単に「運動が得意」ということ以上の、深刻な生理学的意味を持つ指標である。
CRFとは、運動中に、心臓、肺、血管系が連携して、酸素を効率よく体内に取り込み、それを全身の筋肉へと運び、筋肉がその酸素を利用してエネルギーを生み出す能力の総称である。

この能力が高いということは、
- 心臓のポンプ機能(一度に送り出す血液量)が強い。
- 血管がしなやかで、血流(酸素)の通り道が広い。
- 肺のガス交換効率が高い。
- 筋肉のミトコンドリア(エネルギー工場)が発達し、酸素を利用する能力が高い。 という、全身の主要な生命維持システムが、極めて高いレベルで統合・最適化されていることを意味する。
逆にCRFが低いということは、この全身の連携システムのどこか、あるいはすべてが効率悪く機能していることを示しており、それ自体が心血管疾患や代謝性疾患の温床となる、極めて「病的な状態」であるとも言えるのである。
研究が明らかにした、3つの驚くべき事実
この大規模研究が導き出した結論は、健康に関する我々の優先順位を根本から見直すよう迫る、衝撃的なものであった。
事実①:体力は「高いほど良い」。健康利益に“天井”はなかった

これまで、一部では「過度な運動はかえって心臓に負担をかけ、体に悪いのではないか」という俗説もささやかれていた。しかし、本研究はこの俗説を完全に否定した。
研究チームは、参加者のCRFを年齢と性別で補正し、5つのグループに分類した。
- Low (体力レベルが下位25%)
- Below Average (下位25%〜49%)
- Above Average (上位50%〜77%)
- High (上位78%〜97.7%)
- Elite (上位2.2%)
結果は、息をのむほど明瞭であった。体力レベルが高ければ高いほど、死亡リスクは直線的に低下し続けたのである。
最も体力が低い「Low」グループと比較して、
- 「Below Average」グループの死亡リスクは 約50%低下
- 「High」グループの死亡リスクは 約60%〜70%低下
- そして、最も体力が高い「Elite」グループの死亡リスクは、実に約80%も低下していた。
驚くべきことに、最も体力が高い「Elite」群において、死亡リスクの上昇や利益の頭打ちは一切見られなかった。これは、人間の健康にとって、CRF(体力)の利益には実質的に“天井がない”ことを示している。やればやるほど、体力を高めれば高めるほど、その恩恵は大きくなり続けるのである。
事実②:【最重要】体力不足は、喫煙や糖尿病よりも“死”に直結する

これが、本論文が突きつけた最も衝撃的なメッセージである。
研究チームは、CRF(体力)が、私たちが知る他の伝統的なリスク因子(喫煙、冠動脈疾患、高血圧、糖尿病、高脂血症)と比べて、どれほど強力に死亡を予測するかを比較分析した。
結果、CRFの低さ(Low群であること)は、これらすべての伝統的リスク因子を凌駕する、最強の死亡予測因子であった。
例えば、Low群の死亡リスクの上昇度は、
- 「喫煙」のリスク上昇度よりも 約1.4倍 高い
- 「糖尿病」のリスク上昇度よりも 約1.4倍 高い
- 「冠動脈疾患(心臓病)」のリスク上昇度よりも 約1.6倍 高い
- 「高血圧」のリスク上昇度よりも 約1.3倍 高い
という、驚愕の数値が示された。
これは、我々の常識を根本から揺さぶる。私たちは「タバコを吸うこと」「糖尿病であること」を極めて深刻な健康問題として捉えている。しかし、このデータが示すのは、「心肺持久力が低いまま放置されている状態は、それらの病気や習慣よりも、あなたの命を脅かす、より深刻なリスクである」という紛れもない事実である。
血圧や血糖値の数値を下げるために薬を飲む一方で、自らの体力を向上させる努力を一切行わないことは、極めて矛盾した、そして危険な行為であるとさえ言えるだろう。
事実③:高齢者や持病を持つ人ほど、体力の恩恵は絶大である
「もう年だから」「高血圧だから」と運動を諦めている人々にとって、これほど希望に満ちたデータもないだろう。
この研究では、体力の恩恵が、年齢や性別、さらには持病の有無に関わらず一貫して見られることが確認された。そして特筆すべきは、その恩恵が70歳以上の高齢者や、高血圧を持つ患者において、最も顕著であったことである。
これは、体力がすでに低下し始めている、あるいは他のリスクを抱えている人々にとって、CRFを高める努力が、若く健康な人々よりも、さらに大きな「延命効果」をもたらすことを意味する。体力向上は、何歳から始めても遅すぎることはなく、むしろリスクを抱える人ほど、その見返りは絶大なのである。
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結論:健康診断の「必須項目」を変える時が来た
このクリーブランド・クリニックの研究は、我々の健康に対する価値観にパラダイムシフトを迫るものである。我々は、自らの健康状態を測る「モノサシ」の優先順位を、根本から変えねばならない。
血圧、コレステロール、血糖値、BMI――これらは確かに重要な指標である。しかし、それらは多くの場合、不健康な生活習慣の「結果」として現れる数値である。

一方で、CRF(心肺持久力)は、「結果」であると同時に、自らの積極的な「行動」によって、年齢や持病に関わらず、最も劇的に改善させることが可能な指標である。
この論文の著者の一人、Wael Jaber博士は、この結果を受けて「CRFは、他のどのリスク因子よりも強力に死亡率を予測する。我々は、これ(CRFの低さ)を、治療可能な病気として扱うべきである」と結論付けている。
では、その「治療法」とは何か。言うまでもなく、「運動」である。
幸いなことに、CRFは非常にトレーニング効果が出やすい指標でもある。我々が今日からでも実践すべき戦略は明確である。
- 「Low」群からの脱出が最優先: 本研究で示された最も危険な状態は、下位25%の「Low」群に留まり続けることである。まずは、そこから脱出し、「Below Average」群に移るだけで、死亡リスクは約半減する。この一歩が、最も重要である。
- 「楽な散歩」では、CRFは上がらない: CRFを高める鍵は、心臓と肺に意図的に「負荷」をかけることにある。単に歩数を増やすだけの「楽な」ウォーキングでは、CRFは効率的に向上しない。
- 「中強度以上の運動」を意識する: CRFを高めるには、「少し息が弾む」「ややきついと感じるが、会話はギリギリできる」程度の中強度の運動、あるいはそれ以上の高強度運動が不可欠である。
- いつものウォーキングに「早歩き」の区間を設ける。
- エスカレーターではなく「階段」を選ぶ。
- 平坦な道ではなく「坂道」をコースに入れる。
- いわゆる「インターバル速歩」(3分間の早歩きと3分間のゆっくり歩きを繰り返す)は、極めて有効なCRL向上トレーニングである。
健康診断のたびに、医師は我々に血圧や血糖値の低下を厳しく指導する。しかし、この研究結果に基づけば、医師はそれと同等、あるいはそれ以上に、患者にこう問うべきなのである。
「あなたは、自分の心肺持久力を高めるために、息が弾むような運動を週にどれくらい行っていますか?」と。
体力は、自分で獲得できる最も強力な「薬」である。そして、体力不足は、私たちが自らの意志で治療し、克服すべき、最も危険な「病」の一つなのである。